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  • hspの特性

はじめに

HSP(Highly Sensitive Person)は病気ではありませんが、その繊細な気質ゆえに、特定の精神疾患にかかりやすい傾向があります。特に「PTSD/解離性障害」「うつ病」「不安障害」「適応障害」などが挙げられます。

HSPはなぜ心の病にかかりやすいのか

HSP(Highly Sensitive Person)の特徴のひとつに、外界や内面の刺激を受け取りやすく、神経の働きが非常に繊細であるという点があります。
私たちが感じる感覚刺激――音、光、匂い、痛み、感情など――は、脳の「島皮質(insula)」という領域で処理されます。この島皮質は、身体感覚や情動の統合に関わる重要な部位であり、HSPの場合、この領域の活動が非常に活発であることが知られています。
つまり、同じ刺激を受けても、HSPの脳では普通の人よりも数倍に増幅されたかのように強く反応し、深く処理されるのです。

ストレスと脳の伝達経路

ストレスは、脳内で電気信号として伝達され、最終的には「視床下部(hypothalamus)」という中枢に到達します。視床下部は、以下のような生命維持に関わる重要な機能を担っています。

・自律神経の調整(交感神経・副交感神経)
・睡眠リズムの制御
・摂食行動の調整
・ホルモン分泌の管理
・性欲や情動の調整

HSPのように、ストレス信号が過剰に伝達されると、視床下部への負荷が人一倍大きくなり、その結果として自律神経のバランスが崩れやすくなるのです。

島皮質

視床下部

自律神経の乱れと心身の不調

自律神経は、私たちの感情の安定にも深く関与しています。
つまり、自律神経が乱れると。

・感情のコントロールが難しくなる
・不安や緊張が高まりやすくなる
・睡眠障害や摂食障害を併発しやすくなる

HSPは、日常の些細な刺激にも敏感に反応するため、慢性的なストレス状態に陥りやすく、結果として心の病(うつ病、不安障害、適応障害など)にかかりやすい傾向があるのです。

感情の蓄積と扁桃体の反応

さらに、不快な感情を抑え込んだり、溜め込みすぎたりすると、脳の「扁桃体(amygdala)」が過剰に活性化します。扁桃体は、恐怖や不安の処理を担う領域であり、ここが過活動になると

不安感や緊張感が慢性的に高まる
些細な出来事にも過剰に反応する
不安障害やパニック障害の引き金になる

HSPは、他者の感情や場の空気を深く感じ取るため、自分の感情を後回しにしがちです。その結果、感情の蓄積が脳のストレス中枢を圧迫し、心の病に繋がるリスクが高まるのです。

HSPと精神疾患の違い

項目HSP精神疾患
本質生まれつきの気質病理的な状態
診断医学的診断ではない精神科医による診断が必要
持続性状況により緩和可能治療が必要な場合が多い
対処法環境調整・自己理解催眠療法・薬物療法・心理療法など

HSPがかかりやすい精神疾患とその理由

適応障害

HSPは環境の変化に敏感で、自己調整に時間がかかるため、適応障害と診断されることがあります。職場や学校など、刺激の多い環境や人間関係の変化に適応するのが難しく、ストレス反応が過剰になるとおこりやすくなります。
対処法は、環境を変えたりカウンセリングになります。

自律神経失調症・・・主に身体的な症状

自律神経失調症とは、イライラ、憂鬱、汗をかきやすい、乾燥肌、めまい、ふらつき、耳鳴り、不眠、過眠、疲れやすいといった身体的症状が2週間以上続く症状の総称です。強い気分的な落ち込みなどは伴うことはありません。睡眠障害、うつ病なども自律神経失調症を併発している状態です。

睡眠障害・・・自律神経失調の一種

睡眠障害は、睡眠に関わる障害です。夜決まった時間に眠れない(不眠)、あるいは一日中眠気がする(過眠)があります。年齢とともに、睡眠に関わる神経伝達物質メラトニンが減少してくるので睡眠時間は短くなっていく傾向があり生活リズムが崩れやすくなる傾向がありますが、トラウマ的な症状から睡眠障害を引き起こす場合もあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

強いストレスによる精神、身体的後遺症の基本単位がPTSD/解離性障害です。
心の傷といわれるもので、精神や身体への不調が後遺症として残るものです。
PTSDが起こると、交感神経が高まり、不安感が強くなります。
解離性障害はPTSDとは逆反応で、副交感神経(背側迷走神経)が高まり、憂鬱、無気力感が強くなります。
PTSDや解離性障害を何度も受けることを「複雑性PTSD」といいます。
複雑性PTSDの結果、自律神経失調症、睡眠障害、うつ病、強迫性障害を発症していきます。

不安障害(Generalized Anxiety Disorderなど)

HSPは未来への不確実性や人間関係の微細な変化に強い不安を感じやすい傾向にあります。
これは、扁桃体の過活動により、些細な刺激でも「危険」と認識しやすい脳構造が背景にあるとされています。
幼少期の虐待やいじめなどの経験が、長期的な精神的影響を残す可能性が高く、HSPはトラウマ体験の記憶を深く刻みやすく、再体験やフラッシュバックが起こりやすい傾向にあります。

社交不安障害(Social Anxiety Disorder)

他人の評価に敏感なHSPは、人前で話す・注目される場面で強い不安を感じやすいため、
「嫌われたくない」「迷惑をかけたくない」という思いが強く、回避行動が増えてきます。

うつ病(抑うつ障害・無気力症候群)

自己否定感や完璧主義が強いHSPは、失敗や批判に過剰に反応しやすく、抑うつ状態に陥りやすい。
他人の感情に共鳴しすぎて、自分の感情を抑圧する傾向があり、慢性的な疲労や無力感につながります。

予防と回復のヒント

自己理解を深める:「敏感さはギフト」と捉え、自己否定を減らす。
安心できる環境を整える:静かな空間、人間関係の見直し。
感情の境界を意識する:他人の感情と自分の感情を分ける練習。
専門家の支援を受ける:生きづらさが強い場合は、心理士や精神科医に相談。

HSPは「病気になりやすい人」ではなく、刺激に対して深く反応する人です。その深さが、時に苦しみを生みますが、同時に共感・創造・洞察の力にもなります。生きづらさを感じたときこそ、自分の感性を守り育てるチャンスです。

まとめ:繊細さは病ではなく、深さの証

HSPが心の病にかかりやすいのは、脳の構造的・機能的な特性によって、ストレスや感情刺激を深く受け止めてしまうからです。
しかし、それは「弱さ」ではなく、深い共感力と感性の証でもあります。

・自律神経を整える習慣(呼吸法、瞑想、自然とのふれあい)
・感情を言語化する練習(ジャーナリング、詩的表現)
・安心できる人間関係の構築
・ストレスを与えてくるものは排除
・自分の感性を否定しないこと
これらを通じて、HSPは自分の繊細さを守りながら、心の安定を育むことができます。

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