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- トラウマ症状
不眠症の基本的な理解

「不眠症」と聞くと、ただ眠れない症状を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし実際には、眠るべき時間に眠れない、あるいは日中に眠ってはいけない場面で眠ってしまうといった睡眠サイクルの乱れが多くのケースに該当します。完全に眠れないという状態はむしろ稀であり、ほとんどの場合は「眠りにくい」「眠りが浅い」「昼間に強い眠気がある」といった症状が中心です。
不眠症は非常にありふれた症状であり、全人口の10〜20%程度の人が抱えているといわれています。
児童期には夜は自然に眠れ、朝はすっきり目覚めることができるため、授業中に居眠りする子供は少ないものです。
しかし高校・大学と進むにつれて生活リズムが乱れ、授業中の居眠りや遅刻が増え、高齢になると「ほとんど眠れない」と訴える人も多くなります。年齢とともに睡眠障害を抱えやすくなる傾向があるのです。
自律神経との関わり

不眠症はストレスやトラウマの積み重ねによって起こる自律神経失調の一種と考えられています。
交感神経が高まった状態では、夜になっても脳が覚醒してしまい「不眠」となります。
副交感神経(背側迷走神経)が過剰に働く状態では、過眠となり日中も強い眠気に襲われます。
このように、不眠症は単なる「眠れない病気」ではなく、自律神経のバランスの乱れが背景にあるのです。
睡眠不足がもたらす悪循環

睡眠が不足すると感情が不安定になり、イライラしやすくなります。
ストレスが蓄積すると、エネルギー不足を補うためにお菓子、タバコ、お酒の量が増える傾向があります。
こうした生活習慣の乱れはさらに睡眠の質を悪化させ、悪循環サイクルに陥ります。
この悪循環が続くと、過度に悲観的になり「悪いことばかりが起きている」と感じたり、生きることが辛く、希望を見いだせなくなることもあります。
加齢と睡眠の変化

高齢になるほど副交感神経の働きが弱まり、さらに睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌量も減少します。そのため睡眠時間が短くなり、睡眠の乱れが顕著になります。
これは自然な加齢現象でもありますが、不眠症を悪化させる要因となります。
睡眠薬に頼ることの罠

眠れない夜が続くと、頼りたくなるのが睡眠薬です。睡眠薬は一時的に深い眠りをもたらし、辛さを忘れさせてくれる存在ですが、本来の睡眠メカニズムとは異なる方法で眠りを強制する薬です。
主な薬の種類
・ベンゾジアゼピン系(レンドルミン、ハルシオンなど)
・非ベンゾジアゼピン系(リスミーなど)
これらは脳のGABA神経に作用し、ドーパミンやノルアドレナリンといった興奮性の神経伝達物質を抑制することで眠りを誘発します。しかしこれは「自然な眠り」ではなく、アルコールによる酩酊に近い強制的な眠りです。
睡眠薬の作用と本来の睡眠との違い

自然な睡眠は、脳内のセロトニンがメラトニンに変換されることで訪れます。
ところが睡眠薬はこのプロセスを経ずに眠りを強制するため、脳のリズムを乱し、長期的には睡眠の質を低下させることになります。
ベンゾジアゼピン系の危険性
ベンゾジアゼピン系は安全と思われがちですが、長期服用すると耐性・依存・離脱症状が強く現れます。日本ではその危険性が十分に認知されていないため、安易に長期処方されるケースが多く、結果としてうつ病やパニック障害に発展する人もいます。
アルコール依存症と同様に、睡眠薬依存も深刻な問題です。
一度飲み始めるとやめにくく、減薬には何年もかかる場合があります。
これらの薬はGABA神経に作用するもので、セロトニンを増やす薬ではありません。
不眠=うつ病とメディアで報道されていますが、不眠はうつ病ではないのでメディア報道に惑わされないよう注意が必要です。
ベンゾジアゼピン系の危険性も認知されてきていることから、近年、以下のような新しいタイプの睡眠薬も登場しています。
・ラメルテオン(ロゼレム):メラトニン受容体拮抗薬
・スボレキサント(ベルソムラ):オレキシン受容体拮抗薬
これらは従来のベンゾジアゼピン系とは異なる作用機序を持ちますが、やはり「自然な眠り」を促すものではありません。眠りが浅く悪夢を見やすい、昼間に眠気が残るなどの副作用が報告されており、居眠り運転などのリスクも指摘されています。
耐性と依存の問題
睡眠薬は長期服用すると耐性がつき、効果が薄れていきます。そのため薬の量が増えたり、より強い薬に切り替えられることになります。結果として脳や肝臓、胃腸に負担がかかり、頭痛、吐き気、めまいなどの副作用が強く現れるようになります。
薬をやめようとしても離脱症状が激しく、服用を続けるのも中止するのも困難になるという悪循環に陥る人も少なくありません。
改善のためにできること

不眠症を根本的に改善するためには、薬に頼るのではなく自律神経や生活リズムを整えることが重要です。
・適度な運動やストレッチ
・規則正しい生活習慣
・マインドフルネス瞑想や呼吸法
・リラックスできる音楽の活用
・ストレス要因の軽減
これらを日常に取り入れることで、自然な眠りを取り戻し、質の高い睡眠を得ることが可能になります。