はじめに
睡眠には、「体内時計」と「ホメオスタシス機構」という2つの大きな仕組みが関わっています。
前回の記事では、このうちの「体内時計」について解説しましたが、今回はもう一つの重要な仕組みである「ホメオスタシス機構」について取り上げていきます。
ホメオスタシスとは ~体内の状態を一定に保つ(恒常性)~
ホメオスタシスとは、外部環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする生命維持の仕組みを指します。
日中に活動を続けていると、時間の経過とともに「睡眠物質」と呼ばれる脳内の物質が少しずつ蓄積していきます。
この睡眠物質が増えるほど眠気が強くなるため、夕方から夜にかけて自然と眠くなるのは、この仕組みによるものです。
日中に運動をすると強い眠気を感じることがありますが、これは活動量が増えることで睡眠物質の蓄積が加速するためです。
体が「使った分だけ休ませよう」とするのも、ホメオスタシスの働きの一部です。
疲労がたまると、体は睡眠を促してストレスを軽減し、細胞の修復やエネルギーの回復を進めようとします。
こうした「疲れたら眠くなる」という自然な反応も、ホメオスタシスが正常に働いている証といえます。
睡眠物質とは ~眠りを促す物質~

睡眠物質とは、「睡眠欲求の高い状態で脳内、体液内に出現し、睡眠を引き起させたり維持させたりする物質」と定義されています。
睡眠物質として、アデノシン、ウリジン、酸化型グルタチオン、プロスタグランジン、サイトカイン、神経ペプチドなど数十種類のものが知られています。
日中活動によって睡眠物質が増えすぎると脳が壊れてしまうので、睡眠物質の生産を止め、さらにこれを分解するために、脳の働きを止めて眠ります。
起きていると増えて、眠ると減るのが睡眠物質です。
睡眠物質の代表で最も眠気と関わりがある「アデノシン」は、細胞の代謝で生み出されるエネルギーのアデノシン三リン酸(ATP)が分解されてできたもので、エネルギーの燃えカスのようなものです。
アデノシンが蓄積されていくと強い覚醒作用のある神経伝達物質「ヒスタミン」の放出が抑えられるために眠くなり、眠っている間にアデノシンがアデノシン三リン酸に変換されて、再度エネルギーとして再利用され疲労がとれていきます。
「ウリジン」は脳の働きを抑える神経を活発にさせる作用のほかに、傷んだ神経の機能回復や新生、不要な情報の消去などにも貢献しています。
また、「酸化型グルタチオン」は脳を目覚めさせる神経系を抑える働きとともに、脳の活動によって生じた活性酸素などの細胞毒を解毒して、脳細胞を守ってくれる働きもあります。
夜よく眠れるようにするには

体内時計を整えていても、夜あまり寝付けない、眠ってもすぐ目が覚めるという原因の一つとして、「アデノシン」の分泌が少ないことが考えられます。
そういった場合は、アデノシンを増やすことが睡眠改善にも期待できます。
その方法として、「運動」と「昼寝」があります。
運動
運動をすると、多くのエネルギー(ATP)がつくられるので、そのぶんアデノシンも生成されます。
運動した人と、運動をしなかった人の睡眠中の脳を比較すると、運動した人のほうが深い眠りになることが分かっています。
昼寝をする
体内時計による眠気のピークは1日に2回あります。
2つのピークは
・午前2~4時
・午後2~4時
です。
午後のピークの頃、眠気で活動量が減少してしまい、睡眠物質量が増えにくくなってきます。
そのタイミングに合わせ、午後3時までの間に20分程度の昼寝をすることで、昼寝をしないときよりも睡眠物質が多くつくられます。
つまり、睡眠物質が多く作られるだけでなく眠気が減り、効率的に活動ができます。
しかし、午後3時以降に仮眠をとると、睡眠物質が減るため夜中に寝つきが悪くなり目が覚めてしまうので注意が必要です。
寝つきを悪くする要因
カフェインをとる ~コーヒー、紅茶、緑茶など~

カフェインは、眠気覚ましやダイエットのサポートとして知られていますが、夜にコーヒーなどを飲むと眠れなくなることは多くの人が経験しています。
その理由は長い間はっきりしていませんでしたが、近年の研究で、カフェインとアデノシンという物質の分子構造がよく似ていることが分かってきました。
カフェインはアデノシン受容体に結びつき、アデノシンの働きをブロックしてしまうため、眠気が抑えられるのです。
そのため、深い眠りに入るためには、体内のカフェインがアデノシン受容体から取り除かれていく必要があります。
しかし、カフェインの作用時間は意外と長く、人ではその半減期が5〜8時間といわれています。
半減期とは、摂取したカフェインの作用が半分になるまでの時間のことです。
(たとえば、200gのコーヒーを飲んだ場合、100g分に含まれるカフェインがまだ覚醒作用として働いている状態です。)
さらに、カフェインの効果が完全に抜けるまでには数日かかることもあります。
そのため、カフェインを含む飲み物を日常的に摂っていると、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることがあります。
睡眠の質を高めたい場合は、就寝時間から逆算して8時間前以降はカフェインを摂らない習慣をつけるとよいとされています。
(例:23時に寝るなら、15時以降はカフェインを控える。)
ただし、HSP(ハイリーセンシティブパーソン)気質の人はカフェインの影響を受けやすいため、さらに早めに控えるか、朝だけにするほうが安心かもしれません。
カフェインは、コーヒーだけでなく緑茶、紅茶、ココア、栄養ドリンク、チョコレートなどに含まれています。
夜飲む場合は、カフェインの含まれていないものを飲むといいでしょう。
アルコールを飲む

アルコールはアデノシン濃度を上昇させる作用があり、そのためお酒を飲むと眠気が襲ってきます。
しかし、睡眠の質は悪いため、数時間以内に目を覚まし、その後、眠れなくなるという事態に陥ります。
お酒を毎晩寝る前に飲むと、不眠症やアルコール中毒になっていく恐れもあるので、注意が必要です。