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  3. 精神医療3:2000年代投薬治療の広がり~うつ病から双極性障害へ~

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日本におけるSSRI市場の誕生と「うつ病キャンペーン」

アメリカでSSRIが大成功を収めたあと、その市場はカナダ、オーストラリア、イギリス、フランス、スウェーデンへと広がっていきました。こうした国際的な流れを見れば、日本にSSRIの巨大マーケットが誕生するのは時間の問題だったといえます。


2000年以前の日本では、「うつ病」という言葉は現在ほど一般的ではありませんでした。状況が大きく変わったのは、1998年にSSRIが日本で承認され、その販売促進のために大規模な「うつ病キャンペーン」が展開されたことがきっかけです。
優性保護法」が1996年に廃止されてまもない2年後のことです。
製薬会社は電通と協力し、テレビ、新聞、雑誌、インターネットを総動員して、「うつは心の風邪」「うつと思ったらすぐ病院に」というキャッチコピーを広め、精神科や心療内科への受診を積極的に促しました。

その結果、一時的な気分の落ち込みや生活上のストレスで受診した人に対しても、簡単な問診だけで「うつ病」と診断され、SSRIが処方されるケースが多発しました。こうした状況の中で、うつ病患者数はわずか1年で100万人規模に倍増し、日本でも他国と同様に「SSRI現象」と呼ばれる急増が起こりました。
さらに、SSRIの代表薬であるパキシルは、それ以前に広く使われていた三環系抗うつ薬(TCA)と比べて約18倍も高価でした。日本でのキャンペーン開始後、抗うつ薬の売上は2000年からの8年間で約10倍に増加し、精神医療市場は急速に拡大していきます。

一方、アメリカではすでに、SSRIを服用しても症状が改善しないばかりか、かえって悪化したり、自殺や他害行為につながる重大な副作用が問題となっていました。日本でも2004年頃から、パキシル服用後の攻撃性の増加や自殺衝動が話題となり、自殺者数やリストカットの増加が社会問題化しました。
うつ病で自殺した患者の約7割が精神科で治療中であり、その多くが抗うつ薬を服用していたといわれています。特に、本来はうつ病ではなく、仕事や家族関係、恋愛の悩みなど、薬では解決できない問題(適応障害レベル)を抱えて受診した人にまでSSRIが処方され、症状を悪化させてしまったケースが少なくありませんでした。

1998年からうつ患者、SSRI売り上げ急増

1998年から自傷行為、自殺者急増

代表的なSSRIである「パキシル」を販売するグラクソ・スミスクライン社は、過去に自殺関連の訴訟を多数抱えており、約150件の訴訟で平均200万ドル(約2億円)を支払っていると報告されています。
しかし、こうしたSSRIの副作用や訴訟問題が欧米で大きな社会問題になっている事実は、日本ではあまり広く知られていません。

その背景には、SSRIの販売促進に深く関わってきた広告代理店が、日本国内での情報発信に強い影響力を持っていたことも一因として考えられます。結果として、欧米での副作用問題や訴訟の実態が、日本では十分に共有されてこなかった可能性があります。

そして、そのグラクソ・スミスクラインが資金を出して制作したとされるCMが、まさにこの映像です。

抗うつ薬のもつ怖い作用

抗うつ薬の副作用については、処方される前に十分な説明が行われないことが少なくありません。一般的な薬と同じように、眠気や喉の渇きといった比較的軽い副作用が現れることもありますが、それ以上に注意が必要な症状として「離脱症状」「セロトニン症候群」「賦活症候群」などがあります。

これらの症状は、服薬中だけでなく、減薬や中止の際にも起こりうるため、治療には慎重な経過観察と適切な管理が求められます。

一般的な副作用

抗うつ薬は、主にセロトニンとノルアドレナリン神経に作用する薬です。
しかし、選択的にこの2つの神経系統のみに作用することは上手くいかず、他の神経系統
(アセチルコリン、アドレナリン、ヒスタミンなど)
にも作用するため、これが副作用を引き起してしまいます。

離脱症状(抗うつ薬中断症候群)

離脱症状とは、薬物を完全に中止した場合だけでなく、服用を続けながら減量した際にも現れる不快な症状のことを指します。抗うつ薬の離脱症状は、DSM-5では「抗うつ薬中断症候群」という名称で扱われており、一度薬に身体が慣れてしまうと、なかなかやめにくくなる厄介な問題です。

離脱症状の程度や持続期間は、薬の種類や個人差、服用期間によって大きく異なります。1〜2週間ほどでおさまる場合もありますが、数か月以上続くこともあり、日常生活に支障をきたすほどつらい状態に陥ることもあります。

離脱症状

抗うつ薬、とくにSSRIのパキシルなどで起こりやすい離脱症状のひとつに、
耳が「シャンシャン」と鳴るような感覚や、手足が「ビリビリ」としびれるような症状があります。
これらは俗に「シャンビリ」と呼ばれることもあります。

離脱症状は、薬の血中濃度が急激に低下した際の身体反応が原因と考えられていますが、正確なメカニズムはまだはっきりと解明されていません。

シャンビリ

セロトニン症候群

抗うつ薬を服用している際に、脳内のセロトニン濃度が過剰になることで起きる副作用があります。これは抗うつ薬に限らず、ハーブの「セント・ジョーンズ・ワート」を過剰に摂取した場合にも起こるといわれています。

セロトニン症候群

アクチベーションシンドローム(腑活症候群)

SSRIやSNRIといった抗うつ薬の副作用の一つに、初期投与や増量時に起こりやすい症状があり、「初期刺激症状」と呼ばれています。この状態では、不安や焦燥感が急激に高まり、境界性パーソナリティ障害や双極性障害のような情緒の不安定さが一時的に強まることがあります。

その結果、衝動性が増し、リストカットや自殺行為に至るなど、危険な症状が現れる場合があります。こうした反応は、薬が効き始める前の段階で起こりやすいため、特に慎重な観察が必要とされています。

アクチベーションシンドローム

抗うつ薬の作用メカニズムは、セロトニンやノルアドレナリンのトランスポーターに作用する点で、覚醒剤と類似した部分があります。違いがあるとすれば、作用や副作用の強さが覚醒剤よりも弱いという程度であり、基本的な作用の方向性には共通点があるといえます。

そのため、長期間服用を続けることで、気づかないうちに脳内の神経系に負担が蓄積していく可能性が指摘されています。合法であり、医師が処方している薬であるがゆえに、安心して使用してしまいやすい点が、かえって注意を必要とするところでもあります。

逃げ口実策の 双極性障害キャンペーン

「うつは薬で治るんです」といった当初のキャッチフレーズとは裏腹に、実際には治らない人や薬漬けになってしまう人が増えていきました。

病院に通うと、年々体重が増え、相撲取りのように太ってしまった患者を見かけることも珍しくありません。こうした現実から、「薬ではうつ病は治せない」という風潮が次第に強まっていきました。

そのような中で、製薬会社が次に打ち出してきたのが、
薬でうつ病が治らない…そんなあなたは双極性障害だったのです
という新たな枠組みでした。
2012年にはNHKスペシャルで「抗うつ薬で治らない4割は双極性障害だった」と放送され、これまで稀な病気とされていた双極性障害が急速に注目されるようになります。2012年以降、双極性障害の診断は年々増加し、現在ではうつ病と同じくらい一般的に耳にする病名になりました。

2000年代前半には、精神分裂症が統合失調症へ、躁うつ病が双極性障害へと名称変更されました。これらは本来、先天的な要因が強く、うつ病とはまったく別の疾患とされてきました。しかし、抗うつ薬で改善しない場合の“落としどころ”として、「実は双極性障害だった」という診断が使われるようになっていったのです。

その結果、うつ病が薬で治らない以上、投薬治療を続ける先には、最終的に双極性障害か統合失調症へと診断が移行していくという、いわば“言い訳システム”が出来上がってしまいました。

適応障害や抑うつ、不安障害といった比較的軽度の状態で受診した人でさえ、最終的に双極性障害と診断され、一生薬漬けになってしまうケースも少なくありません。

かつては「二大精神病」とされ、神経症としてのうつ病とは明確に区別されていた疾患が、こうした流れの中で混同されていったのです。双極性障害と診断されると、リーマスやデパケンといった気分安定薬が処方され、薬の種類も量も増えていきます。結果として、製薬会社にとっては売上が増えるという構造が生まれ、一石二鳥の仕組みが出来上がってしまったといえるでしょう。

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