グルタミン酸とは

たんぱく質は、炭水化物(糖質)や脂質と並ぶ、人体を構成するために欠かせない三大栄養素の一つです。
グルタミン酸は、そのたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸の一つで、アミノ酸同士が鎖状につながることでたんぱく質がつくられています。
グルタミン酸は生物を構成する基本的な栄養素であるため、ほとんどすべての食品に含まれている身近な存在です。
人体でも合成されており、体内のアミノ酸の約2%を占めることから、非必須アミノ酸に分類されています。
脳内では、グルタミン酸は記憶や学習といった高次機能に関わる興奮性神経伝達物質として重要な役割を果たします。
また、アンモニアの解毒や利尿作用、脳の活性化にも関与しています。
さらに、酵素反応によって鎮静系の神経伝達物質であるGABA(ギャバ)に変換され、興奮したノルアドレナリンの働きを抑えて交感神経を落ち着かせる作用も知られています。
一方で、脳内のグルタミン酸が過剰になると、神経細胞に対して毒性を示し、細胞を傷つけることがあります。
この過剰な興奮性はパーキンソン病との関連が指摘されているほか、近年では強迫性障害(OCD)や一部の精神疾患において、脳内グルタミン酸が優位に増えている可能性も報告されています。
そのため、グルタミン酸は精神機能とも深く関わる神経伝達物質の一つと考えられています。
また、食品中にも豊富に含まれており、甘味・塩味・苦味・酸味とは異なる「うま味」を生み出す成分としても広く知られています。
グルタミン酸のもたらす効果
グルタミン酸は食品から摂取した場合、体内でたんぱく質の構成成分として利用されます。
しかし、血液脳関門を通過できないため、食品由来のグルタミン酸がそのまま脳内に入り、神経伝達物質として働くことはありません。
脳内で神経伝達物質として働くグルタミン酸は、体内で合成されるグルタミンから生成されます。
このように、体内で利用されるグルタミン酸と、脳内で神経伝達物質として働くグルタミン酸は、役割も生成経路も異なっています。
| 口から摂取する場合 | 脳内で神経伝達物質として働く場合 | |
| 適度な量 | ・内臓での脂肪の蓄積を抑制。 ・肌の美しさにも働きかける。 ・血圧を下げる | ・毒素アンモニアを無毒化 ・利尿作用 ・脳を活性化し学習効率を高める |
| 過剰 | ・睡眠障害、神経症、幻覚 | ・脳内神経細胞を破壊 ・強迫性障害(OCD)、パーキンソン症 |
| 不足 | ・脳の働きの低下、排尿阻害 | ・統合失調症 |
グルタミン酸の出来方

食品から摂取した場合
食事から摂取したたんぱく質は、胃液や膵液などの消化酵素によってアミノ酸やペプチドに分解され、腸の壁から体内へ吸収されます。
吸収されたアミノ酸は一度肝臓に集められ、血液を通じて全身の組織へ運ばれ、そこで再びたんぱく質の合成に利用されます。
グルタミン酸(うま味成分)を摂取した場合、その多くは腸管のエネルギー源として使われ、さらに肝臓では他のアミノ酸をつくる材料としても利用されます。
ただし、口から摂取したグルタミン酸は血液脳関門を通過できないため、脳内に直接入って神経伝達物質として働くことはありません。
脳内神経伝達物質の出来方

脳内で神経伝達物質として働くグルタミン酸は、体内に豊富に存在するグルタミンが血液脳関門を通過し、脳内でナイアシンを補酵素として利用する反応によって生成されます。
この脳内グルタミン酸は神経活動を活性化し、記憶・学習・認知といった高次機能に深く関わっています。
また、グルタミン酸はアンモニアとともにGAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)の働きを受けることで、抑制性神経伝達物質であるGABAへと変換されます。
(つまり、GADはグルタミン酸からカルボキシル基を取り除く働きを担っています。)
ただし、GADは通常の状態ではグルタミン酸と結合できません。
GADにビタミンB6が結合することで酵素の形が変化し、はじめてグルタミン酸と結合して反応を進めることができるようになります。
そのため、グルタミン酸からGABAを生成するためには、ビタミンB6が不可欠な栄養素となります。
グルタミン酸と精神障害の関係 ~強迫性障害・統合失調症~

うつ病や双極性障害などの気分障害をもつ人の中には、強迫スペクトラム障害(OCSD:自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群、チック、トゥレット障害、抜毛症、皮膚むしり症、自傷行為、身体醜形恐怖、摂食障害、依存症など)を併せ持つ場合があります。
これらの症状は互いに影響し合うことがあり、併存がみられるケースも少なくありません。
強迫性障害は、遺伝的要因、食事、長期にわたるストレス、神経毒性物質、炎症など、複数の因子が複雑に関わり合って発症すると考えられています。
その背景には、脳内の神経伝達物質の働きの偏りが関係している可能性も指摘されています。
強迫性障害の特徴は、本人の意思とは関係なく、特定の行為や思考を繰り返してしまうことです。
症状が慢性化しやすく、うつ病と比べても治療に時間がかかることがあるため、丁寧なケアが必要とされています。
グルタミン酸と強迫性障害(OCD)
強迫性障害(OCD)の治療は、これまで主にセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質に注目して進められてきました。
しかし近年、OCDの人では脳内のグルタミン酸濃度が健常者より高く、その結果として神経伝達が過剰に亢進している可能性を示す研究が増えてきています。
このことから、OCDとグルタミン酸濃度の関係に注目した研究が活発になっています。
ドイツのRuhr大学の研究では、薬物療法を受けていないOCD患者の髄液(脳内を循環する液)を調べたところ、健常者より高いグルタミン酸濃度が確認されたと報告されています。
また、2006年にはトロント大学とシカゴ大学が、脳内でグルタミン酸を運ぶタンパク質が一部のOCDケースと関連している可能性を示しました。
さらに、MGH(マサチューセッツ総合病院)やジョンズ・ホプキンス大学の研究でも、同様の関連が指摘されています。
加えて、グルタミン酸の働きに影響を与える薬剤を投与したところ、OCDの症状が改善したという報告もあり、グルタミン酸系を標的とした治療の可能性が注目されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/24/3/24_157/_pdf
グルタミン酸と統合失調症(グルタミン酸仮説)
統合失調症は長らく、脳内ドーパミンが過剰に働くことが原因とされる「ドーパミン仮説」に基づいて説明されてきました。
しかし、この仮説では幻覚や妄想といった陽性症状は説明できても、意欲低下や社会的引きこもりなどの陰性症状を十分に説明することができませんでした。
1980年、J.S. Kimらの研究により、統合失調症患者の髄液中のグルタミン酸濃度が低下していることが報告され、統合失調症の発症メカニズムとして「グルタミン酸の異常」に注目が集まりました。
これがいわゆる「グルタミン酸仮説」です。
また、グルタミン酸の働きを抑える作用をもつフェンシクリジン(PCP)という薬物を使用した人に、統合失調症に似た症状が現れることも知られており、この点からもグルタミン酸機能の低下が症状に関与している可能性が示唆されています。
グルタミン酸仮説の特徴は、従来のドーパミン仮説では説明が難しかった「陽性症状」と「陰性症状」の両方を説明できる点にあります。
そのため、現在では統合失調症を理解するうえで、ドーパミンだけでなくグルタミン酸を含む複数の神経伝達物質のバランスに注目した研究が進められています。
グルタミン酸の制御

以上のように、グルタミン酸は
・口から摂取した場合は、体内でたんぱく質の材料として利用されるもの
・脳内では、神経伝達物質として働くもの
というように、体内と脳内でまったく異なる役割を担っています。
そのため、今後は 「体内のグルタミン酸」と「脳内のグルタミン酸」 を分けて整理していきます。
口から食品として摂取する場合(体内)

グルタミン酸を極端に多く摂取した場合、睡眠の質の低下や神経の過敏さなどが生じる可能性が指摘されています。
一方で、グルタミン酸が不足すると、脳の働きが低下したり、排尿に関わる機能がうまく働かなくなることがあります。
ただし、グルタミン酸はほとんどすべての食品に含まれているため、日本の食生活では不足することはほとんどありません。
特に昆布や野菜、チーズなどの発酵食品、味噌や醤油といった発酵調味料には多く含まれているため、摂りすぎには注意が必要です。
以下は、食品に含まれるグルタミン酸量の目安です(mg/100g):
昆布(200~3400)、チーズ(180~2220)、白菜(40~100)、トマト(100~250)、アスパラ(30~50)、ブロッコリー(30~60)、玉ねぎ(20~50)、しょうゆ(400~1700)、味噌(100~700)
単位:mg/100g(データ:NPO法人 うま味インフォメーションセンター調べ)
脳内のグルタミン酸

強迫性障害の場合(グルタミン酸過剰)
強迫性障害のある人は、脳内のグルタミン酸が過剰になっている傾向が指摘されています。
そのため、脳内で過剰に働くグルタミン酸のバランスをどのように整えるかが重要な視点になります。
考えられるアプローチとしては、大きく二つに分けて考えることができます。
1.ビタミンB6を補給しグルタミン酸をGABAに変換促進

グルタミン酸は、ビタミンB6とGAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)が結合することでGABAへと変換されます。
強迫性障害のある人では、脳内のグルタミン酸がGABAより優位になっている傾向が指摘されており、その背景の一つとして、ビタミンB6不足によりGABAへの変換が十分に進まない可能性が考えられています。
GAD自体は脳内に存在しているため、ビタミンB6が十分にあると、GADの働きが高まり、グルタミン酸からGABAへの変換が促されるとされています。
実際に、ビタミンB6の摂取によってGADの活性が高まり、GABA量が増加したという報告もあります。
GABAが増えると神経の興奮が落ち着きやすくなるため、不安や緊張が和らぐことにつながる可能性があります。
ただし、GADとビタミンB6の結合のしやすさには個人差があり、遺伝的な要因が関わるとも言われています。
そのため、少量のビタミンB6で十分に働く人もいれば、同じ効果を得るためにより多くの量を必要とする人もいると考えられています。
2.サプリメントNACを利用する。
市販されているサプリメント「N-acetylcysteine(NAC)」には、グルタミン酸の働きを抑える作用があるとされ、強迫性障害(OCD)に対して限定的ながら効果を示す研究報告があります。
また、NACは抜毛症に対しても有望視されており、特に成人では一定の改善がみられたという報告があります。一方で、子どもでは効果が限定的であるとされています。
NACはサプリメントとして利用されているため、一般的には大きな副作用が少ない点も利点として挙げられています。
統合失調症の場合(グルタミン酸欠乏)
脳内のグルタミン酸が不足している場合、体内のグルタミンからグルタミン酸への変換を促す方法が考えられます。
その一つとして挙げられるのが、ナイアシン(ビタミンB3)の摂取です。ナイアシンは補酵素として働き、グルタミンからグルタミン酸への反応に関わるとされています。
ナイアシンを高用量で用いた治療を行い、多くの統合失調症患者の社会復帰を支援したと報告した医師として、エイブラハム・ホッファーが知られています。
彼の臨床経験から、ナイアシンが一部の人に対して有益に働く可能性が示唆されていますが、現在の医学では治療の第一選択として一般的に用いられているわけではなく、研究段階の側面もあります。