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はじめに

全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder:GAD)は、理由のない漠然とした不安が持続的に続く精神疾患です。誰もが日常生活の中で不安を感じることはあります。
例えば、新しい部署やクラスに馴染めるかどうか心配になる、試験の出来が悪く不合格を恐れる、といった経験は自然なものです。
しかし、GADではその不安が慢性的かつ制御困難な形で続き、生活全般に影響を及ぼします。精神医学的には、不安が6か月以上持続し、社会生活や仕事、学業に支障をきたす場合に診断されます。
GADで起こる症状

GADの症状は精神的なものと身体的なものに分けられます。
精神的症状としては、常に心配が頭から離れない、疲労感が抜けない、集中力の低下、いらいら、睡眠障害、気分の落ち込み、記憶力の低下などがあります。これらは日常生活の質を大きく損ないます。
身体的症状としては、頭痛、肩こり、筋肉の緊張、しびれ感、ふるえ、めまい、下痢、悪寒や熱感、動悸、息切れ、のどのつかえ、吐き気などが挙げられます。
これらは自律神経失調症の症状と重なる部分が多く、患者本人は「体の病気ではないか」と思い込み、さらに不安を強めてしまうこともあります。
また、GAD患者の6割以上はうつ病を併発しているか、将来的に発症すると言われています。
不安は交感神経を過度に高める「過覚醒状態」を引き起こすため、非定型うつ、パニック障害、広場恐怖などの併発も多く見られます。
不安を紛らわせようとアルコールに依存してしまうケースもあり、アルコール依存症のリスクも高まります。
発症の背景と脳科学的要因

GADは人口の約5%、つまり20人に1人が発症するとされ、女性は男性の約2倍の頻度で見られます。
発症は10代半ばから多く、どの年齢でも起こり得ます。
背景には小児期の家庭環境(過保護・過干渉、逆境体験)、愛着障害、PTSDなどが関与することが知られています。感受性が強い人(HSP)や内向的な人は特に影響を受けやすく、長年蓄積されたストレスが交感神経優位の状態を作り出し、何らかのきっかけで症状が顕在化します。
脳科学的には、感情を司る「扁桃体」が過剰に活性化している状態が特徴です。
通常、前頭前野が扁桃体の過剰反応を抑制しますが、そのバランスが崩れると交感神経が高まり、不安障害全般に影響します。扁桃体が誤作動を起こしやすい人は、些細な刺激でも強い不安や緊張を感じやすく、これが慢性的な不安の温床となります。
薬物療法の特徴と注意点

精神科で処方される薬は主にベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬です。
代表的なものにデパス、ソラナックス、レンドルミンなどがあります。
これらは短期的には不安を和らげる効果がありますが、長期使用によって耐性が生じ、効果が薄れていきます。その結果、処方量が増加し、依存のリスクが高まります。
薬の効果が切れると抑え込まれていた交感神経が再び高まり、不安が初期より強くなる場合もあります。
非定型うつやパニック発作を誘発することもあり、注意が必要です。
改善のための取り組み

不安症状を改善するには、副交感神経を高めて扁桃体の過剰な活動を抑えることが重要です。
具体的には以下の方法が効果的です。
・リラクゼーション法:瞑想、ヨガ、アロマセラピーなどで心身を落ち着ける。
・呼吸法:腹式呼吸や4-7-8呼吸法などで自律神経を整える。
・軽めの運動:ウォーキングやストレッチで緊張を緩和。
・生活習慣の改善:規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、過度なアルコールやカフェインの制限。
これらを継続的に取り入れることで、扁桃体の過剰反応を抑え、前頭前野とのバランスを回復させることが期待できます。
まとめ
全般性不安障害(GAD)は、理由のない不安が慢性的に続き、生活に大きな影響を与える疾患です。
精神的・身体的症状が複合的に現れ、うつ病やパニック障害などの併発も多く見られます。
背景には家庭環境や脳科学的要因があり、扁桃体の過剰反応が中心的役割を果たしています。
薬物療法は短期的には有効ですが、長期使用には依存や副作用のリスクが伴います。
そのため、リラクゼーション、呼吸法、軽運動、心理療法などを組み合わせ、持続的に取り組むことが重要です。
不安は誰にでも訪れる感情ですが、GADではその不安が制御困難な形で続きます。
理解を深め、適切な治療とセルフケアを行うことで、少しずつ安心を取り戻すことが可能です。