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- トラウマ症状
醜形恐怖症の定義と位置づけ
醜形恐怖症(しゅうけいきょうふしょう)、英語では Body Dysmorphic Disorder(BDD)と呼ばれるこの障害は、DSM-5において「強迫症関連障害」の一つとして分類されています。特徴的なのは、自分の外見に対する過剰で持続的な不満や恐怖です。本人は「自分の顔や体の一部が醜い」「人から奇異に見られている」と強く思い込みますが、客観的には問題がない、あるいはごく軽微な特徴しか存在しないことが多いのです。
この「思い込み」は単なる不安やコンプレックスを超え、日常生活を著しく妨げるレベルに達します。学校や職場に行けなくなる、人前に出ることを避ける、鏡を何度も確認する、過度な化粧や整形を繰り返すなど、強迫的な行動が伴います。
発症
アメリカの発症率調査では国民の1%程度とされていますが、患者は医師にも言わない傾向が多いため、実際は多数の患者がいるのではと推測されています。
身体醜形恐怖症の発症は患者の70%近くが18歳までに発症し、最も多いのが12~13歳の思春期です。
思春期とは、男子は男性らしく、女子は女性らしく身体が変化してくる時期で、他人と自分の違い・他人から見た自分がどう見えているのかなど、今まで以上に意識するようになってくる過敏な時期であるため、他人から指摘されたことに対して過剰に反応しコンプレックスとなるものと考えられています。
また、中高年からでも「薄毛」「しみ」「メタボ」などの悩みを抱えることもあり幅広い年齢で発症します。容姿にこだわる女性のほうが多く、男性4割、女性6割の比率と言われています。 近年はSNSへの自撮り投稿でも発症することもあるともいわれています。

症状の具体像
症状としては、ちょっとした軽いことが気になると自身を卑下し、自己肯定感が下がり、恐怖症、強迫観念や自身の顔を見る事に恐怖を抱くか、逆に何度も鏡で自身の顔を確認するといった症状が現れてきます。
症状は30代から自然に緩和してきますが、最悪、摂食障害や整形を何度も繰り返し行うこともあり、整形で失敗すると、そのショックでうつ病など精神疾患を発症する危険性もあります。
醜形恐怖症の症状は多様ですが、代表的なものを整理すると以下のようになります。
A.反復的な確認行動

外見へのとらわれのイメージが頭に浮かぶたびに、自分の顔を満足するまで何時間も鏡で確認したり、過剰な身づくろいや化粧を繰り返したりします。鏡があると、つい自分の身体や顔を映し、周囲やSNSで何度も「おかしくないよね?」「かわいいよね?」「褒めて」と確認する行為が増えていきます。
また、何度も日焼けをして肌を黒くしたり、写真を理想通りに写るまで何度も撮り直したり、整形を繰り返すような行為が見られる場合、身体醜形障害の可能性が潜んでいると考えられます。
鏡を何度も覗き込み、写真を撮って確認し、他人に「変じゃない?」と繰り返し尋ねる――こうした行動は、外見への過度なこだわりの表れです。
B.隠蔽行動

Aとは逆に、ミラーに自身の姿が映ることに対して恐怖を抱き、自分が映らないように避けたり、わざと見ないようにする行為が特徴です。
写真に撮られた場合も同様に、写真に写ることを嫌い、自身の顔が写ったものは見ないようにすることもあります。
また、帽子、スカーフ、サングラス、マスク、厚メイクで気になる箇所を隠す行動もみられます。
C.社会的機能の低下

学校や職場に通えなくなり、人間関係を避けるようになることで孤立が進み、うつ病や不安障害を併発しやすくなります。
自分の「醜い部分」を人に見られることが強い苦痛となると、外出に恐怖を抱くようになり、電車に乗れなくなったり、引きこもり状態に追い込まれたりします。その結果、日常生活にも深刻な支障をきたすことがあります。
D.危険な行動

過度な整形手術や自傷行為に至るケースもあり、自殺企図のリスクは高いとされています。持続的に襲ってくる容姿へのコンプレックスの恐怖や、それを抑えるための確認・逃避行為によって精神は疲弊し、慢性的な疲労感を抱えやすくなります。
さらに「より美しくなりたい」という思いから始めた過度なダイエットが摂食障害を引き起こしたり、整形を繰り返すようになる場合もあります。しかし、整形の失敗や失恋による心理的ダメージをきっかけに強い落ち込みを経験し、そのショックからうつ病や統合失調症を発症する危険性も高い傾向にあります。
なりやすい人
不安や欲求による認知の歪み、社会的な心理的要因、生理学的な錯覚が関与していると考えられています。原因については諸説ありますが、親や兄弟から容姿を貶された経験や、他人から傷つけられた体験がトラウマとなる場合があります。こうしたタイプには、感受性の高いHSP気質や内向的な人が多い傾向があります。
比較的、性格的には長所が多く、完璧主義な人ほど欠点に気づきやすい傾向があります。実際には容姿レベルが平均以上で、いわゆる「イケメン」や「美女」とされる人に多く見られ、外見上は全く問題がないことも少なくありません。
しかし、あまりに高い理想と現実とのギャップに悩まされる人が多く、他人からどれほど「美しい」と言われても、その言葉が治癒につながることはほとんどありません。
心理的背景と原因
醜形恐怖症の背景には、複数の要因が絡み合っています。
1.認知の歪み
自分の容姿だけを過剰に否定的に捉える「選択的注意」が働きます。他人の容姿は正常に認識できるのに、自分に対しては「欠点」ばかりが拡大されるのです。
2.自己価値感の低さ
幼少期からの否定的な体験、いじめや容姿に関する批判が自己評価を傷つけ、外見への過敏さを強めます。
3.文化的要因
美しさを強調する社会的価値観、SNSやメディアによる「理想的な容姿像」が症状を悪化させる。
4.神経生物学的要因
強迫症と同様に、セロトニン系の機能不全が関与している可能性が指摘されています。
他の疾患との関連
醜形恐怖症は単独で存在することもありますが、しばしば他の精神疾患と併存します。
・うつ病:自己否定感の強さから抑うつ状態に陥りやすい。
・社会不安障害:人前に出ることへの恐怖が強まり、回避行動が顕著になる。
・摂食障害:体型へのこだわりが食行動に影響し、拒食や過食を伴う場合がある。
・強迫症:確認行動や反復的な思考が共通している。