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  3. 脳の働きをよくする:身体を動かすと分泌されるイリシンと脳機能との関係

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イリシンとは  ~BDNF(脳由来神経伝達物質)を発原~

有酸素運動など身体を動かすことが脳に良い影響を与えることは広く知られており、近年では認知症予防の観点からも積極的に取り入れられています。
しかし、「どのような仕組みで脳の働きが良くなるのか」については、長らく明確に解明されていませんでした。

2012年、ある研究により、有酸素運動を行うことで筋肉細胞から特定のホルモンが分泌されることが発見されました。
このホルモンは、ギリシャ神話でゼウスの妻ヘーラーの伝令を務める女神イリスにちなんで 「イリシン(irisin)」 と名付けられました。イリシンはエネルギー代謝に関与する膜タンパク質の分解によって生じる物質で、比較的新しく発見されたホルモンです。

血液中に放出されたイリシンは、中性脂肪を蓄積する「白色脂肪細胞」に作用し、脂肪を燃焼してエネルギーを産生する「褐色脂肪細胞」のように振る舞わせます。
その結果、体重の減少や血糖値の改善が期待できるメカニズムが確認されています。

イリシンは当初、骨格筋と脂肪組織から分泌されると考えられていましたが、その後の研究で、骨や脳を含む多くの組織でも分泌されていることが明らかになりました。
脳内では、BDNF(脳由来神経栄養因子) が神経細胞の生成・再生に関わることが知られています。

BDNFは神経細胞の分化や成長を促すほか、シナプスの形成や強化にも関与します。
認知症、うつ病、双極性障害、摂食障害などの神経・精神疾患では、BDNFの低下が確認されています。
BDNFは有酸素運動によって増加することが知られていますが、その背景には イリシンの分泌がBDNFの産生を促す というメカニズムが関わっていることがわかってきました。

イリシンの効果

脳機能強化

イリシンは脳内でBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促し、脳神経細胞の働きを活発にします。
BDNFが増えると、IGF-1(インスリン様成長因子)、FGF-2(繊維芽細胞成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)といった成長因子の分泌が高まり、これらは血液脳関門を通過して脳内へ入ります。
BDNFとこれらの成長因子が相互に作用することで、学習や記憶に関わるメカニズムが活性化されると考えられています。

さらに、イリシンは記憶を司る海馬にも存在しており、アルツハイマー病患者ではイリシンとBDNFの濃度がともに低下していることが報告されています。
マウスを対象とした実験では、5週間にわたり毎日水泳を行わせたマウスは、アルツハイマー病の発症に関わるβアミロイドを投与しても記憶障害が見られませんでした。
この結果から、イリシンは認知症の治療や予防における新たな手段となる可能性が期待されています。

脂質代謝の改善・体重減少

一般的に「肥満」とは、白色脂肪が増加した状態を指します。
白色脂肪は余分なエネルギーを蓄積し、身体の器官を保護する役割を持っていますが、過剰になると肥満や心臓疾患、糖尿病などのリスクが高まります。

一方、褐色脂肪は代謝による熱産生を通じてエネルギーを消費する働きを持っています。
イリシンの血中濃度が上昇すると、USP1の発現が刺激されエネルギー消費が増加し、さらにPPARαを介して白色脂肪細胞が褐色脂肪様の細胞へと変換されます。
その結果、肥満やメタボリックシンドロームの予防につながる可能性が示唆されています。

イリシンを増やす方法

イリシンは発見されてまだ日が浅く、その働きについては今後さらに明らかになっていく段階にあります。
現在は、有酸素運動に限らず、筋肉を動かすあらゆる活動によってイリシンが分泌される可能性が期待されています。

運動

有酸素運動

自転車、ウォーキング、ランニング、ダンス、球技、筋力トレなど

糖代謝、エネルギー代謝で重要な役割を果たすPGC-1αは,運動の骨格筋運動によって誘導されてイリシンの分泌を促します。そのため、身体を動かすことがイリシンを分泌し脳のBDNF分泌を促すことにも繋がってきます。
「かつては指を動かすと脳に刺激を与え活性化させる」と言われていましたが、近年は、有酸素運動を含めた全身の筋肉を動かしたほうが脳への刺激が高まると言われるようになってきています。

貧乏ゆすり(ジグリング)

日本では貧乏ゆすりは行儀が悪いとされがちですが、海外では「ジグリング(貧乏ゆすり様運動)」と呼ばれ、健康効果が期待できる運動として注目されています。
ジグリングとは、股関節と膝関節を小刻みに動かす随意運動で、リズム運動と同様の効果が得られると考えられています。

やり方は、椅子に浅めに腰掛け、股関節と膝関節を直角に保ち、足趾の先を床につけたまま踵を浮かせて上下させます。
毎日30分以上、できるだけ速いリズムで上下運動を行います。

ジグリングは、セロトニンの分泌を促し、リラックス状態を示すα波が増えることから、心を落ち着かせる作用があると知られていました。
さらに近年では、全身振動刺激を利用した運動が筋活動を高め、イリシンやBDNFのレベルを上昇させるという報告もあり、脳機能の向上にもつながる可能性が示されています。

貧乏ゆすりはもはや健康療法。~ジグリング(貧乏ゆすり様運動)で脳の働きを高めストレス、トラウマケア!~ | Twilight Zone ~HSP向け催眠オンラインヒーリング~

寒冷曝露(コールドシャワー)

寒冷環境下で長期間作業を行う人は、常温環境で作業する場合と比べて、PGC-1αやイリシンの濃度が増加することが報告されています。
実験では、毎日2時間、体を10℃の環境に4週間さらしたところ、褐色脂肪組織の活性が 1.4倍 に増加しました。
また別の研究では、6週間にわたり、17℃の低温室で毎日2時間の寒冷刺激を与えた結果、褐色脂肪組織の活性が 1.2〜2.1倍 に増加し、体脂肪率が 5%減少 したという報告もあります。



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