はじめに

日本にお茶が伝わったのは奈良〜平安時代の頃で、遣唐使や留学僧によって中国からもたらされたと考えられています。最初の喫茶記録は平安初期、『日本後記』に記された「永忠が嵯峨天皇に茶を煎じて奉った」という記述で、当時のお茶はまだ貴族階級に限られた貴重な飲み物でした。
鎌倉時代に入ると、禅宗寺院を中心に喫茶文化が広まり、武士階級にも浸透していきます。精神統一や覚醒作用が求められる武士にとって、お茶は相性の良い飲み物だったのでしょう。
意外なことに、一般庶民が現在のように日常的にお茶を飲むようになったのは、時代が下って大正末期から昭和初期とされています。私たちが当たり前のように飲んでいる「日常のお茶」は、実は比較的新しい文化なのです。
お茶にはカテキン、テアニン、カフェインといった成分が含まれており、これらはいずれも脳の栄養因子であるBDNFを高める働きがあることが分かってきています。特に緑茶や紅茶にはこれらの成分が豊富ですが、麦茶、ほうじ茶、ルイボスティーなどのノンカフェイン茶には比較的少ない傾向があります。
お茶の分類

世の中にはさまざまなお茶がありますが、紅茶・ウーロン茶・緑茶はいずれもツバキ科の植物「カメリア・シネンシス(チャノキ)」からつくられています。
お茶の違いは原料ではなく、発酵度(酸化の進み具合)によって大きく「発酵茶」「半発酵茶」「不発酵茶」に分類されます。
ここでいう“発酵”とは、茶葉に含まれるカテキンが酸化することを指します。
茶葉を揉むことで細胞が壊れ、酸化酵素が活性化し、発酵が進みます。その過程で葉緑素が分解され、色は 緑(不発酵)→褐色(発酵) へと変化し、香りや渋みも増していきます。
カテキン自体は無色ですが、酸化が進むと赤みを帯びるため、紅茶は赤い色になります。
一方、緑茶が緑色なのは、発酵を止めて葉緑素の色を保っているためです。
不発酵茶・・・緑茶

茶を摘んですぐに、蒸す・炒る・煮るなどの方法で、最初に酸化酵素の働きを止めて製造したもので、一般に「緑茶」といいます。酸化酵素を不活性化する方法によって蒸し製(日本式)と釜炒り製(中国式)に分類されます
半発酵茶・・・ウーロン茶

茶を摘んでから、酸化酵素をある程度活用して製造するもので、一般に「烏龍茶」といいます。
発酵茶・・・紅茶

酸化酵素の働きを最大限活用して製造したもので、一般に「紅茶」といいます。

緑茶の種類

緑茶は不発酵茶で日本茶全般のものが該当します。
日本茶には、煎茶、玉露、ほうじ茶、抹茶等種類は豊富ですが、お茶の木自体は同じもので、栽培方法に違いがあります。
栽培方法の違い
煎茶
(煎茶、深蒸し煎茶、番茶)

煎茶は新芽が出て摘み取るまでの間日光を浴びせて育てます。
かぶせ茶

かぶせ茶は、茶摘みの1週間~10日程前になると日光を遮光します。遮光率は50%程度
玉露、抹茶

玉露は新芽が出始めた頃か、茶摘みの3週間前に日光を遮光します。遮光率は70%から始まり、茶摘み前には90%以上遮光します。
光の遮光量で何がかわるの?
茶の中には、代表的な成分「カテキン」、「カフェイン」、「テアニン」があります。
これはそれぞれ、渋み、苦味、甘味に影響します。
茶葉が日光を浴びると光合成の働きによって、カテキンが増加し渋みが増します。
逆に日光を遮ると、光合成の働きが弱まりカテキンを抑えテアニンが増加し甘味が増します。
つまり、玉露やかぶせ茶で遮光を調整するのは、光合成の働きを抑制することで甘味を出すため行っているのです。

お茶の有効成分カテキン、テアニンの違い

カテキンは、テアニンが光合成によってできるものです。
その違いについてまとめてみました。
カテキンとは ~渋み成分~

カテキンは、ポリフェノールのフラボノイド系(イソフラボン、アントシアニン等)の一種です。
カテキンの語源は、インド産のアカシア・カチュー樹液からとれるcatechu(カテキュー)に由来しています。
1929年に理化学研究所の辻村みちよ博士らによって、緑茶にカテキンが存在することが明らかにされました。
茶葉の中には4種類(エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキンガレート(EGCG))のカテキンが存在しています。
中でも、エピガロカテキンガレートは緑茶のみに含まれ、紅茶、ウーロン茶には含まれません。
この物質の持つ抗酸化力は、ビタミンCの約90倍、ビタミンEの約23倍であるとも言われ、様々な疾患への治療薬としての期待が高まっています。
カテキンそのものはとても渋い味がするのですが、緑茶の他成分(テアニン、カフェイン)と融合しながら渋みが緩和されています。
玉露、抹茶のような光合成が抑えられた栽培では、カテキンが抑えられテアニンの量が相対的に多くなるので、甘みが強い緑茶になります。
カテキンの効果
カテキンは幅広い効用がある成分で、緑茶を飲まない人に比較すると、死亡率、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患が低下する傾向があるという報告があります。
特にカテキンは菌へ吸着する作用があり、口の中では虫歯菌にくっついて増殖を抑え、口臭をおさえ、ウィルスに吸着して体内への侵入を防いでくれます。
腸の中では、悪玉菌に付着して善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌)を増やし、腸内環境を整える効果もあります。
また、フラボノイド特有の強い抗酸化作用もあるため、活性酸素の発生を抑え老化を防いでくれます。
・ダイエット効果(脂肪燃焼を促進)
・美肌、アンチエイジング(抗酸化作用)
・炎症を抑える(抗炎症作用)
・抗ウィルス、虫歯予防(菌吸着)
・肝臓を保護
・血圧を抑える
・血糖値上昇を抑える
・腸内環境を改善する
・長寿命
テアニン ~甘味・うまみ成分~

テアニンは、ポリフェノールのカテキンと異なり、アミノ酸の一種です。
お茶に含まれるアミノ酸にはグルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニンなどのアミノ酸が含まれていますが半分以上はテアニンになります。
テアニンは茶の根で合成されるお茶の甘味(うまみ)成分。
葉に溜まって日光が当たる光合成により
テアニン(甘味)⇒エチルアミン⇒カテキン(渋み)
へと変化し渋みが増していきます。
テアニンは遮光を行いながら栽培する玉露、緑茶などに多く含まれますが、その原料となる茶葉を碾茶(てんちゃ)といいます。
緑茶のテアニン量
| テアニンの量(mg) | |
| 抹茶 | 36 |
| 玉露 | 34 |
| 煎茶 | 10 |
| 番茶 | 3 |
テアニンの効果
テアニンにはリラックス作用があり、ストレス緩和や睡眠の質を改善する効果なども期待できることから注目されています。
テアニン入りの水溶液を摂取後、40分くらいすると脳波にリラックス状態を表すα波がでて、副交感神経の活性度が増すという研究結果もあります。
緑茶には覚醒作用のカフェインが含まれていますが、テアニンはカフェインの興奮を抑え緩やかな作用にする働きがあるようです。
テアニンには、快楽系のドーパミン、鎮静系GABAを増やし、記憶や学習に重要な脳由来神経栄養因子(BDNF)を増やすといった薬理作用も報告されています。
さらに、動物実験では、テアニンが脳神経細胞の障害を軽減し、神経細胞を保護することもわかってきており、脳の働きを高め認知症予防としても期待されています。。
・リラックス作用
・睡眠改善
・抗ストレス
・PMS
・神経細胞保護作用
・血圧上昇抑制
・認知症予防(BDNF促進)
カテキン/テアニンを効率よく摂るお茶の入れ方

お茶に含まれるカテキン/テアニン成分は、抽出するときの水の温度で異なってきます。
そのため、温度に気を付けることでお茶から得られる効果、味も変化してくるので、その特性を知っておくとお茶の効力を最大限に引き出すことができます。
①カテキン成分(EGCG、EGC)を抽出したい場合~広範囲の効果を得たいなら~

緑茶にしか含まれず、効能も高いエピガロカテキンガレート(EGCG)は、溶液中で82℃から構造変化が起こり、20℃以下の低温では抽出されにくい特性があります。
また、ECGCは抗炎症作用、EGCは免疫力を高める効果がありますが、高温であるほどこれらの効果が相殺され本領を発揮できないデメリットもあります。
一方、底温になるほど、エピガロカテキンガレート(EGCG)が減少しエピガロカテキン(EGC)の相対量が増加していきます。
そのため抽出温度を変えることにより、抗炎症用、免疫用として使い分けて飲むことができます。
適した茶葉・・・カテキンの多いお茶
煎茶、深蒸し煎茶、番茶

温かいお茶の作り方・・抗炎症UP用
(ECGCをUP)
・適した抽出温度
70℃~80℃(温かいお茶)
・急須に茶葉(パック)を入れ、お湯をいれて1~3分浸して飲む。

水出し緑茶の作り方・・免疫力UP用
(ECGをUP)
・適した抽出温度
20℃以下(水出し緑茶)
・急須に茶葉(パック)を入れ、水をいれて4分浸して飲む。
カテキン多めのお茶なら
②テアニン成分を抽出したい場合・・・カフェインを抑えたリラックス用

お湯で日本茶を入れると、カテキン類やカフェインの抽出量が増加しますが、逆に、温度を下げると、カフェインが減少し、エピガロカテキン(EGC)とテアニンのリラックス成分が増加してきます。
そのため、テアニンをたっぷり抽出したい場合は、「水出しアイスティー」あるいは「氷水出し茶」が適していますが、氷水を利用することでカフェイン量をぐっと減らすことができます。
また、カテキン、カフェインの渋み、苦味も減少するため、甘味が増し、夜寝る前でも安心して飲めます。
氷水出し茶に適した茶葉・・・テアニンの多いお茶
玉露、抹茶、かぶせ茶
適していない茶葉
番茶、ほうじ茶

「氷水出し茶」の作り方・・急須でつくる
水80~100cc(氷を除く)に対して茶葉10g(パック)を急須に入れ、10分待って湯飲みに注ぐ。

「氷水出し茶」の作り方・・ポットでつくる
1.茶葉25g(パックにする)を入れたポットに1リットルの水を注ぎ冷蔵庫に入れる。
2.1時間後、ポットから茶葉を取り除き、掻き混ぜ完成。
テアニンを多く含んだお茶を選ぶなら ~リラクゼーション、安眠、脳強化~
緑茶でカフェインの摂り過ぎは気にしなくていい?

緑茶にはカフェインが含まれています。
そのため、カフェインに過敏なHSP(感受性の強い人)の方などは気になるかと思います。
お茶に含まれるカフェインの量は、玉露が多い以外は、ほぼコーヒーの1/3程度です。
| カフェイン含有量(mg/100g) | |
| 玉露 | 160 |
| 煎茶、ほうじ茶 | 20 |
| 紅茶 | 30 |
| ウーロン茶 | 20 |
| コーヒー | 60 |
欧州食品安全機関(EFSA)が定めた1日の上限値400mg/日、妊婦の場合は200mg/日と定められています。
これを参考にすると
1日に飲めるお茶の許容量
一般の人 25杯まで (玉露は2杯)
妊婦さん 12杯まで (玉露は1杯)
となります。
そのため、玉露以外はそれほど気をつけることはないでしょう。
BDNFを増やしたい場合は?

テアニン、カテキンともにBDNFを増やし、神経細胞を増やす効果があることが報告されています。
どちらが効果が高いのかは分かりませんが、テアニンのほうが血液脳関門を通し直接脳内にはいりますが、カテキンはごくわずかしか脳に入れない違いがあるのでテアニンのほうが効果が高いのかと推測されます。
テアニンではラット実験でBDNFの増加が確認されており、人対象実験においてもうつ病症状など神経症関係の改善がみられたことが報告されています。
以上を踏まえると、神経症タイプの人はテアニンの多い「氷水入れ緑茶」が効果的なのかもしれません。

大うつ病性障害患者20名で、先行する薬物治療に加えてテアニン(250mg/日)を8週間投与しました。投与前、投与後4週後および8週後にうつ病症状、不安症状、睡眠障害、認知機能について評価しました。その結果、テアニン投与後にうつ病症状、不安症状、睡眠障害、認知機能のいずれも改善がみられ、その多くは4週間以内に効果が現れていました。
参考:テアニンの機能性~特に向精神作用について~ ;太陽化学
https://www.taiyokagaku.com/lab/column/07/
http://www.nips.ac.jp/srpbs/media/press/110825_ncnp_kunugi2.pdf
コラム一覧に戻る