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自律神経の基本構造

自律神経

人間の身体には、数多くの神経細胞が電気配線のように張り巡らされており、複雑なネットワークを形成しています。その中でも特に生命維持に深く関わっているのが自律神経です。
自律神経は、私たちの意思とは関係なく、呼吸、心拍、消化、ホルモン分泌、体温調節などを自動的にコントロールしています。
自律神経は大きく分けて以下の二つの系統があります。

・交感神経:活動や緊張に関わり、昼間やストレス下で優位になります。心拍数を上げ、血圧を高め、筋肉を緊張させる働きを持ちます。
・副交感神経:休息や回復に関わり、夜間やリラックス時に優位になります。消化を促進し、心拍数を下げ、身体を休ませる働きを持ちます。

この二つの神経がバランスを取りながら働くことで、私たちの身体は昼夜のリズムに合わせて活動と休息を繰り返し、健康を維持しています。

自律神経の乱れと不調

自律神経の乱れ

しかし、このリズムが崩れると、精神面と身体面にさまざまな不調が現れます。軽度であれば肩こり、頭痛、疲労感、めまい、冷や汗、耳鳴り、下痢や便秘、イライラ、憂鬱などが数日間続く程度ですが、これらが2週間以上持続し、検査で異常が見つからない場合に「自律神経失調症」と呼ばれることがあります。

重要なのは、自律神経失調症という言葉は診断名ではなく症状の総称であるという点です。
つまり、医学的には「病名」ではなく「状態」を表す言葉であり、原因はストレス、生活習慣、環境要因、心理的要因など多岐にわたります。

精神疾患との関わり

精神疾患

自律神経失調症は、うつ病や不安障害などの精神疾患とも深い関係があります。
うつ病の場合、神経伝達物質の異常が加わり、イライラや気分の落ち込みといった精神的症状が強く現れます。また、ストレスが原因で起こる後遺症には以下のようなものがあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害):恐怖体験によって交感神経が過剰に働き、不眠、緊張、赤面、多汗、フラッシュバックなどが続きます。
解離性障害:慢性的ストレスや過干渉な環境によって副交感神経が過剰に働き、過眠、現実感の喪失、無気力、離人症などが現れます。

日本では一般的に「交感神経が高まることで自律神経失調症が起こる」と説明されることが多いですが、実際には副交感神経が過剰に働く場合もあり、その正しい理解は十分に広まっていないのが現状です。

ポリヴェーガル理論

交感神経と副交感神経

この「副交感神経優位による不調」を説明する理論として、1990年代にアメリカのスティーブン・ポージェス博士が提唱したポリヴェーガル理論があります。
ポリヴェーガル理論では、自律神経を「交感神経」「腹側迷走神経」「背側迷走神経」の三層構造で捉えます。

・交感神経:闘争・逃走反応を司る。
・腹側迷走神経:社会的交流や安心感を司る。
・背側迷走神経:極度のストレス下で「凍りつき」「麻痺」「死んだふり」の反応を司る。
この理論を用いることで、うつ病や解離性障害など「副交感神経優位の症状」も矛盾なく説明できるようになりました。

交感神経優位タイプの症状

パニック

交感神経が過剰に働くと、以下のような症状が現れます。

これらは「過覚醒状態」とも呼ばれ、常に緊張が続き休息が取れない状態です

副交感神経優位タイプの症状

解離

副交感神経が過剰に働くと、以下のような症状が現れます。

これらは「低覚醒状態」とも呼ばれ、身体が冬眠のように活動を抑制してしまう状態です。

治療と対処法

精神医療では抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)が処方されることが多いですが、長期処方によって依存や副作用が生じ、うつ病やパニック障害に発展するケースもあります。
そのため、薬物療法だけでなく以下のような方法も有効です。

・生活習慣の改善(睡眠、食事、運動)
・環境の調整(ストレス要因の軽減)
・催眠療法
・マインドフルネス瞑想
・呼吸法
・リラックス音楽の活用

これらを組み合わせることで、自律神経のバランスを整え、症状を緩和することが可能です。

まとめ

・自律神経は交感神経と副交感神経のバランスで健康を維持しています。
・バランスが崩れると「自律神経失調症」と呼ばれる状態になり、精神面・身体面に不調が現れます。
・PTSDは交感神経優位、解離性障害は副交感神経優位の症状として説明できます。
・ポリヴェーガル理論は副交感神経優位の症状を理解する上で重要です。
・治療には薬物療法だけでなく、生活習慣改善や心理療法が有効です。

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